漢方薬の効き目の不思議

 漢方薬の効果は、科学的に証明されているわけではありません。桂枝湯(けいしとう)という漢方薬の加減方を例に、漢方薬の効き目の複雑さの一端を知っていただき、上手に漢方薬を利用する一助になればと思います。
 桂枝湯は「傷寒論(しょうかんろん/中国・後漢)」という古典に収載される漢方薬です。基本的な漢方薬のひとつで、構成生薬は表①のように五種類の生薬です

表① 桂枝湯の構成生薬
(生薬名) (使用部位と薬効)
桂枝(けいし) クスノキ科ニッケイの枝皮 
駆風 解熱 発汗 鎮痛 矯味
芍薬(しゃくやく) ボタン科シャクヤクの根
鎮痙 鎮痛 鎮静 緩和
甘草(かんぞう) マメ科ウラルカンゾウなどの根 
緩和 消炎 解毒
生姜(しょうきょう) ショウガ科ショウガの根茎
健胃 鎮嘔 矯味 去痰
大棗(たいそう) クロウメモドキ科ナツメの果実
緩和 強壮 鎮静 利尿

 

 桂枝湯を基本にして多くの漢方薬が作られていますが、最も簡単な加減方のひとつに、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)があります。
 表②のように、それぞれを構成するのはどちらも同じ五種類の生薬で、桂枝湯の中の芍薬の量を2グラムだけ増やしたものが桂枝加芍薬湯です。

   表② 桂枝湯と桂枝加芍薬湯の構成生薬
桂枝湯
桂枝4.0g 芍薬4.0g 甘草2.0g 生姜1.0g 大棗4.0g
桂枝加芍薬湯
桂枝4.0g 芍薬6.0g 甘草2.0g 生姜1.0g 大棗4.0g

 

 この二つの漢方薬の作用を西洋医学の立場で考えると、含まれる生薬が同じであれば、配合量に若干の差があっても、基本的には効果に大きな違いはないはずです。
 ところが、桂枝湯は風邪などの発熱性疾患に使われる薬であり、桂枝加芍薬湯は便秘や下痢など、腸の変調の改善に使われます。
 これを料理に喩えてみましょう。桂枝湯の効果をカレーライスの味とするならば、その中の玉ネギを少し増やすだけで親子丼のような予想もつかない味に変わることなのです。
 桂枝加芍薬湯の他にも、桂枝湯に少しの生薬を去加するだけで効果が変わる漢方薬はいくつもあります。
 表③のように、桂枝湯から芍薬を去ると桂枝去芍薬湯(けいしきょしゃくやくとう)になり、動悸や呼吸困難を治し、厚朴(こうぼく)と杏仁(きょうにん)を加えた桂枝加厚朴杏子湯(けいしかこうぼくきょうしとう)は気管支炎や気管支喘息に使われます。
 また、朮(じゅつ)と附子(ぶし)を加えた桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)は、神経痛や関節リウマチに効果的で、竜骨(りゅうこつ)と牡蠣(牡蠣)を加えると桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)になり、いわゆるノイローゼなどに使われます。

表③ 桂枝湯の加減方の一部
(去加する生薬) (新たにできる漢方薬の名前と主な効能)
芍薬を加える 桂枝加芍薬湯 腸の薬
芍薬を去る 桂枝去芍薬湯 動悸、呼吸困難の薬
厚朴、杏仁を加える 桂枝加厚朴杏子湯 気管支炎、喘息の薬
朮、附子を加える 桂枝加朮附湯 神経痛、リウマチの薬
竜骨、牡蠣を加える 桂枝加竜骨牡蛎湯 ノイローゼの薬

 

 これらも料理に喩えれば、カレーライスの中の野菜の一つ二つを去加すればキツネうどんや天ぷらソバになってしまうというような大変な変わりようなのです。
 このようなことは、西洋医学の理屈ではとうてい考えられることでなく、配合される生薬や成分だけで、漢方薬の作用を理解することは不可能なのです。
 遠い将来には、漢方薬の効果を科学的に解明されることがあるかもしれません。しかし現在の時点では、漢方薬は漢方という医学の方法論で使うことによって、よりよい効果を引き出すことができるのです。