トリカブトが漢方薬に使われている?

 先日、本を読んでいたところ、トリカブトは毒だが、漢方薬にも使われているという記述がありました。本当ですか。使われているなら、どのように使われているのでしょうか。
(25歳・男性)
 植物の中には外敵から身を守るために毒を持っているものがあります。その中の一つが、有名なトリカブト。アコニチンという強い毒性成分を含んでいるので、誤食すると、動悸(どうき)やめまいに襲われ、死に至ることがあります。
 このトリカブトの塊根は、附子(ぶし)と呼ばれています。
 狂言の「附子(ぶす)」という演目をご存じの方も多いことでしょう。主人が太郎冠者(かじゃ)と次郎冠者に附子という毒の入った桶(おけ)に注意せよと言って外出しますが、2人はそれが砂糖と知って全部食べてしまい、主人の大事な掛け軸とお椀を壊して「附子をなめて死のうとした」と言い訳するという内容です。※漢方では「ぶし」、狂言では「ぶす」
 このように狂言でも毒とされている附子ですが、実は、漢方では昔から活用されてきました。
 「毒が薬に?」と驚く方もおられるでしょう。しかし附子には、強心、利尿、鎮痛、消炎作用などがあり、新陳代謝機能の衰えた状態を回復します。また、体を温める力が非常に強く、一般に体を温めるといわれている生姜(しょうが)などより、はるかに強力です。
 また、毒性を弱めて薬効を残すような工夫が重ねられ、上手に利用されてきました。現在では、故高橋真太郎先生(元大阪大学薬学部教授、私の師匠の師匠)によって開発された加工附子がよく使われています。加工附子は大幅に毒性が弱められているので安全性が高く、使いやすくなっています。
 もちろん、漢方薬の常として、証に合わせて適切に使わなければいけません。いわゆる効果効能だけでなく、薬を必要とするときの体質や症状など全身の状態に合わせて使うことが大切です。量の問題も微妙なので、附子の製剤を使いたいときには専門家によく相談しましょう。また、冷えの症状がない人や妊婦への使用は避けるべきです。
 いずれにしろ、漢方薬は複数の生薬を組み合わせたものなので、附子だけで使うことはありません。
 附子の入っている漢方薬としては、下痢や腹痛のときによく使われる「真武湯(しんぶとう)」、高齢者を元気にする「八味地黄丸(はちみじおうがん)」、冷え症で体力のない人の風邪に効く「麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)」などが有名です。
 昔から現代にいたるまで活用されてきた附子。役に立たないものを「毒にも薬にもならない」と言いますが、附子は「毒にも薬にもなるもの」なのです。