陰陽虚実で薬が異なりますか

 以前、漢方薬局を訪ねたとき、「あなたは実証と虚証のうち、虚証ですね」と言われましたが、どういう意味でしょうか。私は高血圧なのですが、実証の人と虚証の人では薬が異なるのですか。
(48歳・女性)
 西洋医学では、人間の体を〝部分的〟に調べて部分を治療するのに対し、漢方では、人間を〝全体的〟にとらえ、その人の体質や症状を総合的にとらえた結果を「証」(しょう)と呼びます。その証を判断する基本は、このコラムのタイトルにもなっている「陰陽虚実」の概念です。
【陰陽とは】古代中国で起こった「陰陽」の思想は、森羅万象を「陰」と「陽」の二つに分類する考え方です。「陰証」の人は、内向的、消極的、冷え症で、「陽証」の人は、外交的、積極的、暑がりの傾向が見られます。病気の症状別にいうと、静かで進行が緩やかな状態は「陰証」。逆に、活動的で外に現れやすい状態は「陽証」です。
【虚実とは】虚実は、体質の勢いの差や症状の強弱を表します。「虚証」の人は、平素から虚弱で、気力、体力の不足が見られ、病気に対する抵抗力も弱い状態。一方、「実証」の人は、平素から丈夫で、気力・体力がみなぎっていて、病気に対する抵抗力もあります。病気の症状別にいうと、比較的緩やかに推移する場合は「虚証」。逆に、高熱が出るなど激しく強い症状は「実証」です。
【証の判断】一般的には、陽証で実証の「陽実証」や、陰証で虚証の「陰虚証」の人が多く見られます。ところが、一見しただけでは、やせてひ弱なのに、とても活動的な「陽虚証」の人がいたり、いかにもスポーツマンに見える人が、外出を嫌う「陰実証」の人だったりします。見かけだけでは分からないため、判断はたやすくありません。知識と経験の積み重ねが必要になってきます。
【中庸が良い】健康な人は、陰陽虚実のバランスが取れていますが、病気の人や体調が悪い人は、陰陽虚実のどれかに偏り過ぎています。これを改善するために、強過ぎる「陽」の熱を冷まし、「陰」の冷え過ぎを温め、余分な「実」をカットし、「虚」の足らずを補うというのが漢方の考え方。心身の状態を中庸に近づけることで全身のバランスが整い、病気も改善されるというわけです。
【漢方薬】当然のごとく、陰陽虚実で、選ばれる漢方薬が異なります。例えば、高血圧症に対して、西洋医学では、一律に血圧降下剤を用いますが、漢方では、陽実証の人には大柴胡湯(さいことう)や柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)などを、陰虚証の人には真武湯(しんぶとう)や八味丸(はちみがん)などを用います。同じ病気や症状でも陰陽虚実で漢方薬は使い分けられるのです。