物忘れがひどくなり、心配です

 最近、物忘れがひどくなったようで、心配です。人の名前が分からなくなったり、食べた物が思い出せなかったりで、この先どうなるかと夜も眠れません。
(61歳・女性)
 年をとると、誰でも記憶力が衰えるものです。心配する人もいますが、人の名前を忘れる、食べたものを忘れるなどは、正常な老化現象の一つ。睡眠不足やストレスで物忘れがひどくなるケースがあるので、生活習慣の改善を心がけるとよいでしょう。
 ただし、物忘れが急激にひどくなったという場合は、慢性硬膜下血腫などの脳外科疾患を疑う必要も出てきます。うつ病を患っている場合も、物忘れの症状が見られます。痴呆では、食べたものの名前どころではなく、食べたこと自体を忘れるという現象が生じます。いずれも適切な医療機関で受診することをお勧めします。
 さて、物忘れに漢方薬が効くというと、驚く人も多いでしょう。しかし江戸時代の漢方の書「方彙口訣(ほういくけつ)」においても、「健忘とは、忘れるほうへ健やかなこと」「喜忘(きぼう)は、みごと喜(よ)く忘れること」などとあり、健忘について言及されています。
 同じく江戸時代に本間棗軒先生が著した「内科秘録」では、「健忘」を「夕べには朝(あした)のことを忘れ、朝に夕べのことを忘れ、甚だしき者は今言ったことを直ちに忘れて同じ事を幾度も言い、今聞いたことを直ちに忘れて幾度も問い返して止まない。妻子を呼ぼうとしても名前を忘れて急に思い出せない」と記述していて、「人は老衰すれば病気がなくても多くは健忘を免れない」としています。年をとれば物を忘れることは、江戸時代からの自明の理なのでしょう。
 本間棗軒先生は、健忘に対し、帰脾湯(きひとう)などの漢方薬が有効と述べています。
 では、現代に通用する、江戸時代から伝わる物忘れの漢方薬を紹介しましょう。

帰脾湯(きひとう)虚弱で顔色が悪く、貧血、精神不安があり、不眠症で、考え事が多い人の物忘れに。

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)帰脾湯を用いるべき人よりももっと元気がなく、疲労倦怠、食欲不振がある人の物忘れに。

八味地黄丸(はちみじおうがん)帰脾湯を用いるべき人よりも元気がなく、肉体が衰弱していて、手足に冷えがあり、尿量減少または多尿で、口が渇く人の物忘れに。

 ちなみに、帰脾湯には、高齢者の不安を取り除いて精神状態を安定させる作用もあります。
 漢方では、一つの薬で複数の症状や疾患に奏功することがあります。一度試してもらいたいものです。