認知症に漢方は効きますか

 年老いた父の物忘れが激しくなりました。外出するのもおっくうになっていて、このまま認知症に移行するのではないかと思うと心配です。
(52歳・女性)
 家族や友人の顔と名前を忘れてしまう、お金を盗まれたなどと思い込む、家の外に出て帰れなくなる…。よく見られるこのような認知症の症状は、家族を困惑させ、疲れさせてしまいます。
 当薬局にも、昼夜が逆転し、たった今、ご飯を食べたのにすぐまた食べようとして困るという83歳の女性が、家族の付き添いのもとやって来られました。そのときこの女性は、一人で外出がままならなかったのですが、漢方薬を飲み始めると、3カ月で一人で外出できるようになり、4カ月目にはそれまで飲んでいた安定剤や睡眠薬をやめることができました。
 高齢になると、誰しも記憶力が衰えるものです。物忘れが激しくなることを、漢方でも「健忘(けんぼう)」といい、昔は「善忘」や「喜忘」とも呼びました。
 1864年の本間棗軒(ほんまそうけん)先生の著書「内科秘録(ないかひろく)」の「健忘」の章には、「夕べに朝(あした)の事を忘れ、朝に夕べの事を忘れ、甚(はなはだ)しき者は今言った事を直ちに忘れて同じ事を幾度も言い、今聞いた事を直ちに忘れて幾度も問い返して止まない。妻子を呼ぼうとしても名前を忘れて急に思い出せない」などと書かれており、「人は老衰すれば病気がなくても多くは健忘を免れない」とあります。
 そして、健忘を治す一番の良薬は帰脾湯(きひとう)であり、ほかに補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、八珍湯(はっちんとう)、八味丸(はちみがん)などを使うとしています。
 古典を読むと、人は昔から健忘に悩まされていて、漢方薬は認知症にも功を奏していたことが分かります。効果の認められる漢方薬をいくつか紹介しましょう。

帰脾湯(きひとう)物忘れが激しくなった人、心配事や考え事が過ぎて心が病んだ人などに適しています。酸棗仁(さんそうにん)、竜眼肉(りゅうがにく)、遠志(おんじ)といった、気分を落ち着かせる生薬(しょうやく)が配合されています。虚弱で貧血傾向があり、病後で衰弱した人にも使われます。

抑肝散(よくかんさん)「勿誤薬室方函口訣」(ふつごやくしつほうかんくけつ)に、「問うてみて、怒気があれば、この薬は効かないことがない」と書いてあるように、本人が自覚するほど怒りっぽい人に効果のある薬。

 最近では認知症イコール抑肝散といわれているふしも見られますが、認知症に関してもさまざまな薬があり、その人の状態に合わせて選ぶことが大切です。