漢方の歴史を教えてください

 漢方は中国の医学だと言ったら、ある人から日本の医学だと反論されました。漢方の歴史をよく知らないことに気付いたので簡単に教えてください。
(45歳・男性)
 漢方について、ある程度知識のある人でも、「漢方は中国の医学」と思っている人がほとんどです。
 しかし、結論から述べると、漢方=中国の医学ではありません。漢方は、日本に渡来した古い時代の中国医学をベースにして、日本人に合うように改良したり、新たな処方を考え出したりして、日本で独自に発展をとげてきた、わが国の伝統医学です。
 ざっと歴史をおさらいしましょう。中国から医学が最初に日本に伝わったのは大和時代(4世紀~6世紀ごろ)。室町時代には、中国で金・元時代に体系化された李朱(りしゅ)医学が日本に伝わりました。このころから日本人は中国の医学を日本の気候風土や日本人の体質・症状に合わせて変化させてきました。
 江戸時代に入ると日本の医学としての特徴がますます色濃くなり、後世(ごせい)派、 古方(こほう)派、折衷(せっちゅう)派など、それぞれの考え方を持つ流派が生まれました。このように漢方が全盛だった江戸時代に、西洋医学であるオランダ医学も少しずつ広がりを見せました。そこで当時の人々は従来の医学と区別するために、オランダ医学を「蘭方(らんぽう)」と呼び、日本の医学を「漢方」と呼ぶようになったのです。
 さて、江戸時代までは日本の医学の中心的役割を果たしてきた漢方ですが、明治時代になると、文明開化の名のもとに〝何でも西洋のものがよい〟という風潮に流され、すみに追いやられました。その後はごくわずかな人々によって受け継がれるにとどまり、衰退の一途をたどったのです。このとき失ったものの大きさは計り知れません。しかし昭和初期、一部の医師や薬剤師に注目され、漢方は再び少しずつ復活してきました。
 一方、中国では文化大革命(1966年~1976年)以降、考え方が大きく変わって伝統医学が軽んじられ、独特の発展をしています。
 このように長い年月をかけてそれぞれ独自に変化してきた日中両医学の間には大きな違いが生まれ、それぞれ特徴を持っています。ですから、中国は〝漢方の本場〟ではなく、〝漢方のふるさと〟なのです。
 今また、漢方に注目が集まっています。といっても先人が築き上げてきた伝統的な漢方は今だ置き去りにされたままです。素晴らしい知恵の結集である本来の漢方が普及すれば効果はもっと上がるでしょう。それを学び後世に伝えていくことが、私たち漢方家の責務であると考えています。