“病名漢方”の落とし穴

 私が若いころは、時代が進むにつれ、もっと漢方が広まっていくものだと単純に考えていました。現状を振り返ると、確かに漢方の薬の消費量は格段に増加しました。
 しかし、日本の医学としての漢方、本来の伝統的な漢方の考え方と効果が広まったとは言い難いものがあります。
 例えば、相手が虚証だろうが実証だろうがお構いなしの「風邪なら葛根湯」という思い込み。本来の漢方なら、その人の体質と症状を見極めて薬を選ぶものです。今、熱があるのかどうか、肩が凝っているか、寒気がするか、頭痛がするか、鼻水がひどいかなど、症状と体質にぴたりと合う薬があるはずなのに、すべてひとくくりにするやり方には閉口してしまいます。
 これは一例に過ぎず、「この病気にはこの薬」という単純な決め付けが横行しています。病名で薬を選んでいるので、私たち漢方家は〝病名漢方〟と名付けています。こんなやり方では、漢方薬本来の効果を引き出すことはできないでしょう。
 さまざまな誤解をとくため、「誤解だらけの漢方薬」(岡山リビング新聞社刊)という本を出しました。これからこのコラムでも、少しずつ紹介していきます。